トランペット・サックス・トロンボーン・・・、真鍮で出来た管楽器たち。
ゴールドやシルバー、キラキラと光っているのが普通ですが、時々そのどちらでもなく「飴色」に輝いている楽器を見かけませんか?
アレの名前は「酸化被膜」。なんじゃそりゃ?
さぁ、徹底解説いたしましょう!
●酸化被膜って、なんですか?
通常の真鍮(brass)楽器であれば、ラッカー塗装やメッキ処理が施されています。
地金の真鍮をピカピカに研磨しその上に塗装やメッキがされているので、これ見よがしに光り輝く、というわけ。
この表面処理はとっても大切。
なんといっても、金属を直接守ってくれています。ラッカーにしろメッキにしろ、これが完全な状態だとサビることはありません。
ところが、ある程度使用感のある状態の楽器には、ラッカーが部分的に剥がれていたり、メッキが薄くなっていたり、ということが普通にあるんですね。
手がよく触れる部分などは高確率で地金が露出していますし、場合によっては「ほとんど地金露出状態」の楽器も決して珍しくはありません。
筆者の場合、一番古い「地金露出体験」は、高校生の時でした。
在籍していた吹奏楽部で、雨の中「ひろしまフラワーフェスティバル」でのパレード演奏。
親に買ってもらって三年目のトランペットはずぶ濡れに。
ケースに入れる前に水気を拭き取るのですが、その時に「ズルリ〜ン」と、ラッカーは盛大に剥がれていきました。ビックリしましたね。
このように、経年により地金が露出する場合と、そしてもうひとつ、「最初から地金露出」という「ノーラッカーモデル」も存在します。
そして、その表面を守るのが「酸化被膜」。
実はこの酸化被膜は「錆」なのです。
ただ、これは言わば「良い錆」で、錆によりそれ以上の錆を防いでいる状態と言えるのです。ちょっと不思議ですが、錆でコーティングされているのです。
綺麗に付いた酸化被膜は飴や琥珀のような輝きを放ち、とても味わいがありますよ。
●飴色の輝き・・、音色はどうなの?
最初からノーラッカーのモデルがあることを書きました。
わざわざ無塗装。これは理由があります。
塗装を施さない状態だと柔らかい音色が得られる、
という考えがブラス楽器全般においてあるのです。
金属の表面に何かが着いている状態とそうでない状態では振動の仕方も違いそうな気が普通にしますよね。
真鍮は銅と亜鉛の合金。その配合比率や肉厚の変化などと同じく、材料表面処理の変化も音への影響がある、ということです。
ダークな音色・柔らかい音色、を求める理由でノーラッカーの楽器をチョイスする奏者は少なくないです。
●綺麗に酸化させるには
「そんなこと考えるくらいならそのぶん練習すれば自動的にそうなる説」もありますが、以前当コラム記事にも書いたように「楽器の雰囲気が気持ちを盛り上げてくれる部分」もありますし、道具に愛着を持ち良い状態を維持しようとするのは器楽奏者として非常に大切な事です。
さぁ、どうすれば美しい酸化被膜を得られるのか。
簡単に言ってしまえば、「表面が平滑な状態で錆びている」と美しい酸化被膜となります。
基本的には、ガーゼなどで日々優しく乾拭き。
これで滑らかさを保ちつつ良い状態の錆も保つ、ということです。
水分や手汗の残留は良くないのでこれについては常に注意が必要です。
また、経年変化で真っ赤になってしまっている箇所には「ポッカレモン」を含ませたガーゼで拭くのがオススメ。磨くうちに徐々にあの飴色に変化します。ただし、磨く最中は酸っぱい臭いがするので、そこは我慢!(笑)
あと、もう一つ、これは筆者がやった大技。
酸化被膜を強制的に着ける液体「Brass Black」を希釈した水溶液に、予め軽く滑らかに磨いておいたノーラッカー楽器を漬け込む、というスーパー荒業です(笑)
これが出来る楽器はトランペットやトロンボーンなど構造がシンプルな金管楽器に限られますが、一応こういう方法も、化学的には可能です。
(筆者ブログ記事「酸化被膜大作戦」)
筆者の場合はこういう事の研究が根っから好きですので、様々研究検証した結果確信が得られたので実行しました。その後も良好な状態を保てていますよ。ただし、真似はほんと自己責任でお願いします。
プロトランぺッター河村貴之